【第8話】モスキートゲート(創作ストーリー)

【第8話】モスキートゲート(創作ストーリー)
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嫌な予感は外したことがない

不気味なくらい静かだ。あまりの静けさに心のなかがざわついてしまう。

俺たちを乗せた装甲車は、中継地点まで問題なく到着した。中継地点に着くまでに蚊と戦闘になることも珍しくないと言われているが、今回遭遇したのは偵察の蚊一匹だけ。

「全然蚊が出てこなかったおかげで、今回の輸送は楽だったな!がはははっ!」

松さんが豪快に笑っているけど、拭い切れない違和感がベッタリとへばり付いてくる。

(嫌な予感がする)

自慢ではないが、今まで嫌な予感を外したことがない。周りのハンターにも、この妙な違和感を伝えたいけど、正確な原因が分からないから言語化できない。

場を混乱させるリスクを考えると不用意な発言は慎むべきだろう。自分が感じている嫌な予感をグッと飲み込んだ。

「さあ!荷物をおろして蚊との戦闘に備えるぞ!」

松さんが声を発すると、周りにいたハンターがキビキビと動き始めた。彼は今回の依頼のリーダー的な立ち位置になっていた。

一緒に依頼にあたっているハンターはキャリアのあるメンバーが多い。戦闘力が低い俺への初依頼ということもあり、ハンター協会も気を配りベテランハンターが多い装甲車に配置したのだと推測できた。

初めての依頼内容ということもあり、もたついてしまう。そんな様子を見てくれたのか、松さんが声をかけてくれた。

「悟、無理はするなよ。荷物を運ぶのも大切だが、お前は探知を怠るな。機械が探知できない蚊がいるかもしれないからな。被害を最小限に食い止めるためには、お前のような探知に秀でたやつが必要不可欠だ。やばそうなときは、すぐに共有してくれ」

「はい!任せてください!」

松さんのひと言で気持ちが軽くなるのを感じた。初めての依頼内容ということもあり、思った以上に気が張っていたのかもしれない。

たしかに周りにいるDランクのメンバーと比べて、俺は体力面であきらかに劣っている。荷物運びは、ほかのハンターに任せるのが賢明だろう。

俺は気持ちを切り替えて、周りの警戒に注力することにした。

あたりを警戒していると、少し離れたところから松さんと速見さんの会話が聞こえてきた。

「松さん、あの御手洗ってハンター、そんなに探知に優れているんですか?Fランクですよね」

「そうか、お前はハンターになって日が浅いから知らないんだな。速見、悟を侮っちゃいかんぞ。探知に関してはハンターのなかでもトップクラスだ。最新の機械よりも、よっぽど優秀だぞ」

「マジですか?」

「おう!マジのマジの大マジだ。さっきだって、悟が”いの一番”に蚊に気づいてただろ?ベテランハンターのなかでは、割と有名な話だよ。あいつが担当した避難誘導のエリアでは死傷者が少ないんだ。ハンター協会の職員が数字でも出てるって言ってたから、間違いないぞ」

「それはすごいですね」

「それだけじゃない。あいつ状況判断や危機察知にも優れているから、全然ケガをしないんだよ。普通、低ランクのハンターは蚊に襲撃されたら大事になるもんだが、あいつは蚊との戦闘を回避できるからな。だから、ずっと現場にいられるんだ。低ランクハンターの顔ぶれは頻繁に入れ替わるもんだが、あいつはずっと現場にいるし、あの真面目な性格だから高ランクハンターにも顔と名前は覚えられてるんだよ」

「見た目が強そうじゃないんで、ちょっと舐めてました」

「たしかに”戦闘”という点においては強くはないな。身体能力はFランクのなかでも下から数えたほうが早いだろう。でも、集団での戦いは戦闘力が全てじゃない。だから見た目で判断するなよ。そいつにどんな長所があるのか実際に苦楽を共にしないと分からないものだからな」

速見さんは小声で話していたが、松さんのデフォルトの声は大きいため遠くからでも容易に聞き取れた。松さんの言葉を聞いて目頭が熱くなるのを感じた。

ちゃんと見てくれている人はいる。それだけで大きな心の支えになるのだと実感した。しかし、できれば戦闘面で役に立ちたい。そんな思いが心のなかでくすぶっていた。

あたりを見渡すと、Bランク以上の高ランクハンターをチラホラ見かける。大多数の高ランクハンターは前線に向かっていたが、中継地点にも相当数の高ランクハンターが配備されているようだった。

「やっぱり、いつもの避難誘導とは全然雰囲気が違うな」

いつもの依頼とは明らかに空気感が違う。中継地点は想像以上に緊張感があり、空気がピーンと張り詰めていた。

いつ蚊が襲撃してきてもおかしくない場所だから当然といえる。

ただ、俺の立場からすると、高ランクハンターに囲まれているし、中継地点よりゲートに近づくことはない。探知を怠らなければ、それほど危険はないはずだ。

俺よりも心配なのは、ゲート近辺で蚊と戦っているであろう綾だ。いくらハンターになってから訓練をしてきたといっても、実践と訓練は別物だ。

初の依頼ということもあり、基本的にはサポートに徹しているはずだけど、前線では何が起こるか分からない。たとえAランクハンターとはいえ、危険を伴う。

綾の心配をしていると、遠くから嫌な声が聞こえてきた。声のするほうに視線を向けると、前線で戦っているはずの毒島が視界に飛び込んでくるのであった。

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