【第6話】モスキートゲート(創作ストーリー)

【第6話】モスキートゲート(創作ストーリー)
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不快な存在に自ら近づいて執拗に攻撃する不思議

「おや~、お手洗い。妹は一緒じゃないのか?」

悟がマサの言葉であたたかい気持ちになっていたところに毒島が絡んできた。

「何のようですか?毒島さん」

毒島が絡んできたことで、悟の気分はジェットコースターのように急降下していた。

「いや、特に用はねーんだけどよ。ちょっと視界に入ったもんだから」

「用がないなら、俺のことは構わないでくれませんかね」

「なんだなんだ?いつもはダンマリなのに、妹がいるところではカッコつけたいってか」

「もしかして目が悪いんですか?今、妹いませんけど。ご自身でも『妹は一緒じゃないのか』って言ってましたよね」

「てめえ、今日は一段と調子に乗ってるじゃねえか」

「それは毒島さんの勘違いですよ。毒島さんに対して調子に乗ったことなんてありませんって」

「そういうことをさらっと言うところが調子に乗ってるんだよ。一度痛い目に遭わないと分からないみたいだな」

毒島から怒りの感情が滲む。

悟も煽るつもりはないのだが、妹の綾を侮辱されてから、つい険のある言い方をしてしまう。いつものように適当に受け流すことができずにいた。

「不快にさせたなら謝ります。でもお願いですから、必要以上に絡んでこないでいただけますか」

「そりゃ、お前次第だよ」

「そういわれましても。自分から毒島さんに対して何かをしたことはないと思いますけど」

「お前、気づいてないのかよ。してるよ」

「何をですか?」

「お前の存在が気にいらねー。お前の存在が俺を不快にさせているから、俺にとって害があるんだよ。そうだな、例えるならゴキブリだよ。目の前にゴキブリがいたら気持ち悪いだろ?俺はゴキブリは叩き潰さなきゃ気がすまないタイプなんだよ」

どういう環境で育ったら、ここまで傲慢になれるのか。あまりの理不尽さに、悟は感情のコントロールが利かなくなっていた。

「そうですか。毒島さんってすごく不思議なことをされる方なんですね」

「あっ?なにがだよ」

「毒島さんは、俺のことを『不快だ』『ゴキブリだ』って言いながら、事あるごとに絡んできてるじゃないですか。普通の感覚であれば、気持ち悪いものに自分から近づいていかないと思うんですよ。俺だったら、道端にゴキブリがいても追い回したりしないですから。だから、ちょっと変わった感覚をお持ちなのかなと思いまして」

悟は、毒島の怒りの感情が強くなるのを感じた。

「兄妹揃ってペラペラと……口だけは達者のようだな」

「おかげさまで。理不尽な先輩からよく絡まれるもので」

悟も遠慮することなく言い返した。

「そんな生意気な態度を取っていられるのも今のうちだぞ」

毒島が意味深なことを言い放つ。

「妹、初依頼だってな。いくらAランクとはいえ、初めての依頼だ。兄貴としては心配だよなあ。俺も心配になっちまうよ」

毒島の妙に引っかかる言い方に悟は気持ち悪さを感じた。

「あなたに心配してもらうことはありませんよ」

「いやいや、ハンターの仕事っていうのは何が起こるか分からないからな。高ランクハンターだって、不慮の事故が起こらないとも限らないだろ」

毒島は露骨に悟を挑発した。悟は妹のことで挑発されて、一瞬にして頭に血が上ってしまう。

あまりの怒りに悟の表情が歪む。我を忘れて飛びかかりそうになってしまうのを悟はグッと堪える。

「あんた……何を企んでるんだ」

悟は毒島を睨みつけた。

「はははっ!Fランクが凄んでも怖くねーぞ~」

「おい、毒島。いい加減にしろ」

見かねたマサが話に割って入る。

「おーっと!これはこれは!お手洗いの保護者の谷繁さんじゃないですか」

「別に保護者じゃねーよ。悟は自立した立派な大人だからな」

「Fランク風情が”自立”ですか。俺とは考え方が違うようですね」

「ああ、本当にな」

「昔は前線でだいぶ活躍されたみたいですけど、もうお歳なんですから、無理して現場に出なくてもいいんじゃないですか?」

「お前に心配してもらわなくても大丈夫だよ。まだまだ現役でいけるから」

「そうですか。せいぜいがんばってくださいよ、お・じ・さ・ん」

「ありがとよ、若造。お前はCランク以上の依頼を受けるんだろ?だったら早く説明を聞きに行けよ」

「そうっすね。保護者同伴のカスとこれ以上話すこともないし、そろそろ行くとしますわ」

毒島は、その場を離れようとした。その様子を見てマサは「シッシッ」と追い払うような動作を取っている。

「あっ、そうだ、お手洗い。最後に忠告しといてやるよ。お前を嫌っているのは俺だけじゃないからな。せいぜい気をつけろよ」

小悪党のようなな捨てゼリフを吐いて、毒島が去っていく。毒島は、ただ悟に嫌味を言いに来ただけだった。

「悟、あんなやつの言うことなんか気にするなよ」

「分かってるよ」

悟は、マサがいて本当によかったと安堵していた。あのままヒートアップしていたら、毒島が何をしてきたか分からない。

自分だけが標的になるならまだしも、これからは綾もいる。綾を巻き込むわけにはいかない。悟は感情を暴走させてしまったことを強く反省した。

普通に考えれば、毒島の性格であれば悟への嫌がらせのために躊躇なく綾を標的にするだろう。しかし、悟は毒島が綾に直接何かをする可能性は低いと考えていた。

なぜなら、綾が毒島より格上のAランクハンターだからである。毒島は自分より実力のある者には、迂闊に手を出さない。それに、ずる賢いといってもそこまで頭が回るタイプではない。謀略を巡らせるようなこともしないだろう。

悟は、長年絡まれてきたこともあり、毒島の性格はある程度把握しているつもりでいた。妹に直接手を出すことはない。せいぜい嫌味を言ってきたり、ちょっとした妨害工作をしたりするくらいだろうと予想していたのだ。

しかし、頭で考えた推測とは別に、悟は拭い切れない不安を感じていた。べったりと張り付くような粘っこい嫌な感覚。

こういうとき、いつもなら妹のそばにいられるのに、モスキートハンターの現場では何の力にもなれない。そんな自分の無力さに悟は悔しさを感じていた。

そうこうしているうちに、急ピッチで蚊の討伐準備が進められていくのであった。

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